大質量星(太陽の約9倍より重い恒星)は主系列星としての寿命を終えた後に赤色超巨星と呼ばれる赤く膨張した星へと進化します。 赤色超巨星段階の大気の様子(有効温度や脈動、質量放出など)は、大質量星が超新星爆発に至るまでの一連の進化を理解するための重要な観測対象です。
大質量星の進化モデルを制限するためには、赤色超巨星の有効温度の正確な値が一つの手がかりになります。 有効温度の決定のために、過去には干渉計観測による半径の決定や,可視光分光観測によるTiO分子吸収線強度の決定がなされてきました。 しかし、手法によって得られる有効温度の値に系統的な差があり、どの有効温度が正しいのか分かっていませんでした。 これは、赤色超巨星の複雑な構造を持つ(上層)大気を正確にモデル化するのが難しいのが一因にあります。
そこで我々は上層大気の影響を受けにくい鉄原子吸収線のみを用いた温度決定法を確立しました。 本手法では、有効温度が既に正確に決定されている赤色巨星を用いて有効温度とライン強度比の間の関係を較正し、その関係を赤色超巨星へと適用します。 我々は本手法を太陽近傍にある10個の赤色超巨星に適用し、その有効温度が恒星進化モデルが予想するものとよく一致することを明らかにしました。
詳細は東京大学理学系研究科のプレスリリースと雑誌論文をご参照ください。
赤色超巨星段階での時間変動(脈動や質量放出など)は大質量星の進化トラックやその後の超新星爆発の光度曲線などに影響を与えるため重要な研究対象です。 この時間変動の理解を理解する上で有用な現象が2020年初頭に起きました—ベテルギウスの大減光です。 最も近くにある赤色超巨星の一つであるベテルギウスは、平常時は一等星で、0.3等級程度の振幅で変光しています。 このベテルギウスは2019年末から突如として暗くなり、2020年初頭には観測史上最も暗い二等星(1.2等級程度の減光)となった後に、もとの明るさに戻りました。 この現象を「ベテルギウスの大減光」と呼びます。
我々はこの大減光の原因を解明するために、日本の気象衛星ひまわり8号の画像に着目しました。 ひまわり8号はその名の通り地球表面や地球大気の観測を主目的としていますが、実は地球の縁の周囲に宇宙空間が写り込んでいます。 我々はこの宇宙空間にベテルギウスが写り込んでいることに気付きました。 そこで、ひまわり8号の4.5年間に渡る画像を解析し、可視光から中間赤外線(0.45–13.5 μm)の全16バンドでベテルギウスの光度曲線を得ることに成功しました。 この光度曲線を理論モデルを用いて解析することで、我々は大減光の原因が、表面温度の低下と、星のすぐ側で形成された塵の雲による掩蔽であった可能性が高いことを明らかにしました。
詳細はAstroArtsに寄稿した記事と雑誌論文をご参照ください。